本研究では、テレメトリー自動計測システムを用い、生体内に埋込んだ送信器によって動物にストレスを与えることなく、経時的にグレリン遺伝子欠損(KO)マウスの血圧や体温を観察した。(1)血圧・心拍に見られる基礎値と日内リズムの異常の解析:KOマウスでは血圧・心拍の基礎値と日内リズムに若干の異常が認められたが、高食塩食負荷実験では、野生型マウスとの間に大きな差を認めなかった。一方、KOマウスを用いて投与実験も行なったが、投与操作によるノイズが予想以上に大きく、有効な結果を得ることができなかった。現在投与法の検討を行っているが、代替実験として馴化した食塩感受性高血圧ラットを用いた実験を行なったところ、グレリン受容体拮抗薬の長期投与によって心臓の交感神経終末に存在するカテコールアミン合成酵素の遺伝子発現量が増加することなどが明らかとなった。(2)体温に見られる基礎値と日内リズムの異常の解析:KOマウスでは行動リズムに異常は認められなかった。一方で、KOマウスでは絶食時に見られる体温低下のないことが明らかとなったが、これはグレリンが褐色脂肪組織に入力する交感神経活動を抑制し、アンカップリングプロテイン遺伝子の発現を抑制する方向に働くためであることが見いだされた。(3)消化管の消化液分泌や蠕動運動の解析:KOマウスでは消化管運動が低下していた。一方、グレリンやグレリン受容体アゴニストの投与は消化管運動を充進した。以上、(1)-(3)の研究から、グレリンは自律神経機能と密接に関与していることが示された。今後、詳細なメカニズムの解明や、病態との関わりなどを明らかにしていきたい。
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