研究概要 |
これまで、HBs抗原陽性のHBVキャリアについては、HBVの再燃について注意が払われてきたが、HBs抗原陰性かつHBs抗体陽性あるいはHBc抗体陽性のHBV既往感染者については、肝炎は治癒したものとして注意が払われてこなかった。このようなHBV既往感染者でも造血細胞移植後にはHBVの再燃が起き得ることがわかり、HBV reverse seroconversion (RS)として報告されてきたが、その頻度や免疫学的背景は明らかにされていなかった。我々は移植前HBs抗体陽性だった14症例を検討したところ、全例で移植後HBs抗体が徐々に減少し、12例では移植後10-38ヶ月(中央値13ヶ月)で抗体価が消失した。その後12例中7例がRSを発症した。同種骨髄移植後のHBs抗体の消失、RS発症のリスクは各々移植後2年までで75%,40%、5年では100%,70%に達した。同種移植後のHBV-RSはレシピエント由来のHBs抗体消失後、ドナー免疫再構築によって起こる肝炎と考えられ、HBs抗体価をフォローすることで発症時期が予想できること、移植後1年以上経ってから高率に発症する病態であることが明らかとなった。この観察からHBs抗体価の維持がHBV再燃予防に重要と考えられ、本研究ではHBV既往感染者に移植後HBワクチンを使用することでHBs抗体価の維持、HBV-RSの予防が可能かを検討した。歴史的コントロール群では13例中7例でRSを発症したが、HBワクチンを行った13例からは1例もRS発症を認めず、レシピエントに対するHBワクチン接種で造血細胞移植後のRSが予防可能であることを示した。HBワクチンによる発症予防は、核酸アナログのpre-emptive投与よりも遥かに簡便でcost effectiveである。ただし、造血細胞移植症例での免疫成功率は一般健常人より低いと考えられ、今後適切なワクチンの投与量やタイミングを検討していく必要がある。
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