我々はヒト臍帯血より分離したCD34陽性において静止期より細胞周期に入る際に、early G1 cyclinであるcyclin Dではなくcyclin Cの発現が亢進する事を見いだした。そこでcyclin Cが造血幹細胞(HSC)の静止期から細胞周期への導入を制御しているかどうか検討した。まずcyclin Cに対するshort hairpin RNAをレトロウィルスでの感染効率の低いHSCを含むCD34陽性細胞にレンチウィルスにより導入し、cyclin Cの発現を下げることに成功した。G1/S/G2M期の割合には優位な差は認めなかったが、cyclin Cノックダウン群では静止期細胞の増加を認めた。週毎の増殖速度を検討したところ、初期ではcyclin Cノックダウン群でやや低く、3週以降では高かった。さらに累積増殖はノックダウン群で優位に高かった。培養細胞でのコロニー系性能は培養後期でノックダウン群で著しく高く、自己複製能が亢進していることが示唆された。CFCアッセイや表面マーカー解析では、顆粒球系・赤芽球系とも分化には著変なく、自己複製の亢進は分化ブロックを伴うものではなかった。CD34陽性細胞をより未分化なHSCを含むCD38陰性群と分化したprogenitorであるCD38陽性群とで比較を行った。CD38陰性群では培養5週目のCD34陽性率やコロニー形成能が著しく高く、これはCD38陽性群では認められなかった。以上より、cyclin CはHSCを含む未分化な分画で重要な役割を果たしていることが示唆された。また免疫不全マウスへの移植実験ではノックダウン群において移植6週後でのヒトキメリズムが優位であった。このことからcyclin Cをノックダウする事でHSCの生着を亢進させる事が明らかになり、cyclin Cを阻害する事で生着率を向上させられる可能性を示した。
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