本年度の研究は、麻疹ウイルスH蛋白およびF蛋白をもつレンチウイルスの作製とヒト造血細胞におけるSLAM発現の分布の解析を行った。 (1) 麻疹ウイルスH蛋白およびF蛋白をもつレンチウイルスの作製レンチウイルスベクターの高いウイルスタイターを得るために、麻疹ウイルスH蛋白およびF蛋白発現ベクターとレンチウイルスベクターコンポーネント発現ベクターのモル比を変えて調整をはかった。また、トランスフェクションにおける異なるリポフェクタミン法や異なるパッケージング細胞の使用についても検討した。しかしながら、現在までin vivoの実験にまで十分なタイターは得られておらず、今後さらなる条件設定が必要である。最近、SLAM発現にて純化したマウス造血幹細胞へレンチウイルスによる遺伝子導入が成功した報告があることより、ヒトSLAMノックインマウスを使用することにより、我々のウイルスベクターの造血幹細胞選択的なin vivo導入は十分可能と予想される。 (2) ヒト造血細胞におけるSLAM発現の分布の解析ヒト造血細胞の一部にSLAM陽性を認めたためにそれらの細胞集団の純化を試みたが、造血幹細胞と特定できなかつた。この結果は、造血幹細胞におけるSLAM発現パターンがマウスとヒトでは大きく異なるという最近の報告に一致する。以上より、我々のSLAM分子を介した造血幹細胞選択的な遺伝子導入の系は、現時点ではヒトでは使用困難が示唆される。
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