造血幹細胞は全ての血球細胞への多分化能と自己複製能を保持した細胞であり、生涯に渡って血球細胞を供給し続ける。造血幹細胞の維持は血液システムの維持にとって極めて重要であり、また臨床医学の分野では既に実用化もされているが、その機能を制御する分子機構についてはあまり理解が進んでいない。本研究では、造血幹細胞に高く発現している受容体型チロシンキナーゼTie1に着目し、オーファン受容体であり未解明な部分が多いTie1の機能解明を目指して、リガンドの同定を行いたいと考えている。本年度はTie1リガンドが発現している可能性のあるhTERT細胞のcDNAを発現させた細胞とTie1の細胞外ドメイン融合蛋白質を用いてリガンドスクリーニングを複数回実施し、ポジティブなクローンを得た。それぞれのポジティブクローンからhTERT由来のcDNAを回収し、シーケンシングを行ったところ、2種類のTie1リガンド候補分子を同定した。これと並行して、Tie1の細胞外ドメイン融合蛋白質に結合する分子をhTERT細胞から精製し、質量分析にかけたところ、別の候補分子が同定された。これら同定した全ての分子について結合実験を行ったが、in vitroにおけるTie1との明確な結合能は見出されなかった。Tie1とリガンドとの結合は、弱いか非常に流動的である可能性があり、クロスリンカー等を活用した結合実験や、Tie1の活性化能を検討する添加実験等の必要性が考えられる。
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