Fc受容体を介したマスト細胞の活性化が、アトピー性気管支喘息・皮膚炎などのアレルギー疾患のみならず、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、多発性硬化症などの局所での炎症反応を基盤とする炎症性疾患の病態形成に関与することが明らかになりつつある。本研究は、FcεRIβ鎖によるマスト細胞の活性化制御により、慢性炎症性疾患である慢性関節リウマチに対する新たな創薬・治療法の探索を目指すものである。当初、レトロウイルスベクター系によりFcεRIβ鎖ITAMに変異を導入した粘膜型培養マスト細胞を使用してFcεRIβ鎖の機能解析を行う予定であったが、粘膜型培養マスト細胞は低親和性IgG受容体(FcγRIII)による活性化誘導能が弱く、この点に関して遺伝子導入後の粘膜型マスト細胞を繊維芽細胞と共培養し、組織結合型マスト細胞へ分化させることで改良を試みている。そこで、まず関節などの組織に局在している組織結合型マスト細胞を、FcεRIβ鎖欠損マウスの腹腔から直接採取・培養し、解析を行った。FcεRIβ鎖を欠損するマスト細胞では、FαγRIIIを介したマスト細胞の脱顆粒は、顕著に低下するにもかかわらず、FcεRIβ鎖欠損マウスにおける関節リウマチのクリニカルスコア(疾患症状のパラメーター)は、野生型マウスよりも有意に高値を示した。FcεRIβ鎖は、Fc受容体を介した炎症性サイトカイン産生を負の方向に制御する機能を有するために、現在、FcγRIIIを介したマスト細胞の炎症性サイトカイン産生におけるFcεRIβ 鎖の機能解析をin vitroで進めている。
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