研究概要 |
生体は様々な細菌やウイルスなどの病原体感染の危険に曝されている。生体は病原体の感染を受けると、樹状細胞やマクロファージなどの貪食細胞に発現するToll-like receptors (TLRs)により多様な病原体成分を認識し、TNF-α、IL-6といった炎症性サイトカインの産生などの宿主応答を行う。しかしながら、この防御システムは完壁ではなく、過剰反応は生体に敗血症性ショックや死をもたらす。そのため、感染応答システムの解明とそれに基づく制御法の開発は重要な課題であり、本研究ではTLR4シグナルにおけるチロシンリン酸化ネットワークの全体像を解明し、宿主応答の分子機構の理解を深め、その知見を応用した感染応答の制御を目指している。我々はまず、プロテオミクス技術SILAC(Stable isotope labeling by amino acids in cell culture)を用いて、RAW264.7マクロファージ細胞株のTLR4シグナルにおけるチロシンリン酸化タンパク質の経時的かつ網羅的な同定を行った。その結果、P38,ERK,SHIP,Fes,Pyk2,PLC-γ2といった既知のタンパク質や、38個の新規タンパク質候補を含む合計61個のタンパク質が同定された。安定同位体標識アミノ酸に基づいて同定された25個のタンパク質についてリン酸化変動の定量化を行った結果、20個のタンパク質において2倍以上の変動が認められ、そのうち19個はシグナル伝達因子であった。さらに、変動の認められたタンパク質についてRNAiを用いた機能解析を行った結果、TNF-αの産生には影響しないが、IL-6および抗炎症性サイトカインIL-10の産生を負に制御する新規因子が見出された。この因子が関わるシグナル伝達経路の探索の結果、Syk-PI3K-PLC-γ2経路を介した転写因子NF-κBの持続的活性化を抑制する分子であることが示唆された。本研究により、マクロファージにおいてIL-6およびIL-10の産生を負に制御する新たな因子が同定され、サイトカイン産生調節における新たな分子機構が明らかとなった。
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