研究概要 |
(1)トレーサーの作成 ボセンタンシンチグラフィーの撮影に必要となるトレーサーを放射性同位元素(^<99m>Tc)とアルブミンおよびボセンタン原末を用いて作製した。平成21年5月のカナダ原子力公社の原子炉(NRU炉)に重水漏れがおこり稼動が停止した影響で、同社から全体の7割の^<99>Moを輸入して医療用テクネチウムを製造しているわが国では、実験用Tcの入手が困難とであったが、当初の予定より1年半遅れで実験を再開させた。 (2)肺高血圧および心筋ダメージの評価について モノクロタリンはCrotalaria spectabilisという植物の種子から抽出された毒性のあるpyrrolizidine alkaloidである。この1回皮下投与により肺動脈に炎症と肺高血圧、右室肥大が引き起こされる。研究テーマは肺高血圧の進行度とボセンタンによる肺血管リモデリング抑制作用の他覚的評価法の開発であることから、肺高血圧の程度をシンチグラフィーを用いて視覚的に評価すると同時に、バイオマーカーを用いて数値で表す必要がある。本年度は主に、肺高血圧によって引き起こされる右室肥大や心不全に対し、それを客観的に評価するマーカーの探求を行った。まず、心不全マーカーであるNT-proBNPに注目し、小児に用いることの有用性と肺高血圧患者においても上昇することを調査し、論文として報告した(Sugimoto M, Circ J, 74 : 998-1005, 2010)。また、小児肺高血圧症の診断と治療に関して、心筋ダメージのマーカーとして成人の救急領域で注目されている高感度トロポニンIが心室中隔欠損などの先天性心疾患に伴う肺高血圧で上昇することを突き止めた。5月にバンクーバーで開催されたアメリカ小児科学会および、11月シカゴで開催されたAHA scientific sessions 2010で報告した。
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