腎糸球体の上皮細胞接着装置であるスリット膜は現在尿を産生する際の濾過バリアーとしで働いていることが知られている。そのスリット膜構成成分NephrinやNeph1が糸球体上皮細胞の傷害時にチロシンリン酸化の修飾を受け、細胞内に様々なシグナルを伝達していることが私たちの研究を含め明らかになってきた。また、TRPC6というカルシウムチャネルの活性型変異により遺伝性のネフローゼ症候群が引き起こされることから糸球体上皮細胞のカルシウム代謝に注目が集まっているが、その疾患発症機序は不明である。今回私は質量分析器を用いた網羅的な結合蛋白質の解析によりNephrinの細胞内領域Tyr1204にPLCγ1がそのSH2ドメインを介して結合すること、またNephrinをクラスタリングという手法によって特異的にリン酸化させることによりPLCY1が活性化されること、さらにそのNephrin-PLCγ1の結合によって細胞内Ca濃度の上昇が引き起こされることを明らかにした。さらにin vivoで糸球体上皮細胞にPLCγ1が高発現していること、糸球体上皮細胞傷害モデルであるプロタミン酸還流ラットモデルでNephrinのリン酸化およびPLCγ1の活性化がみられることを見いだし、スリット膜のリン酸化がin vivoにおいてもカルシウムシグナルと関連していることが示唆された。これらの成果は蛋白尿発症機序において最も重要性が高いとされている上皮細胞の傷害において、Nephrinのリン酸化が直接細胞内カルシウム濃度の上昇を引き起こすという新たなメカニズムを提唱するものであり、スリット膜によるカルシウム濃度の調節が腎疾患における糸球体濾過の修飾において大きな役割を果たしていることを示唆するものである。
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