研究課題
若手研究(B)
【背景】川崎病は小中動脈を中心とした全身の血管炎であり、特に冠動脈が傷害される。免疫グロブリン大量療法(IVIG)は、最も有効な川崎病の治療法であり、冠動脈病変(CAL)の合併率を減少させたが、冠動脈病変は川崎病を発症した10%に認められ、15%はIVIGに抵抗性の難治の川崎病であり、新たな治療法の確立が望まれている。川崎病急性期には様々なサイトカインの活性化が報告され、なかでも炎症性サイトカインであるTumor necrosis factor-alpha(TNF-α)は発症早期に高値を示し、炎症機転の中心的な役割を果たすと考えられている。一方、川崎病は、自然免疫の爆発的な活動を特徴とし、中でも、Pathogen Associated Molecular Pattern(PAMP)の一つであるMRP8/MRP14やS100A12は、血管内皮細胞のパターン認識受容体により認識され、シグナル経路から、様々な炎症性サイトカインを誘導し、川崎病では、冠動脈病変を含めた血管炎の重要なマーカーであることを我々は明らかにしてきた。インフリキシマブはTNF-αモノクローナル抗体であり、TNF-αを介して引き起こされる慢性関節リウマチやクローン病といった炎症性疾患において、有効な治療薬であることが報告されてきている。近年、川崎病においても、IVIG無効、メチルプレドニンパルス療法(IVMP)の患者に対するインフリキシマブの投与例の報告が散見されてきている。今回、我々は、IVIG無効、IVMP無効の難治川崎病において、インフリキシマブを投与し、炎症性サイトカインとDAMPの動態の解析を行い、インフリキシマブの血管炎に対する作用機序を明らかにした。【方法】対象は、平成15年から平成18年に発症した11人の川崎病患者(男6人、5人)で、年齢は3ヶ月から7歳5ヶ月(中央値3.8歳)であった。対象の患者は、すべて診断基準を満たし、IVIG 療法またはIVMP療法が無効であった。インフリキシマブ投与前後の血液を採取し、ELISA法を用いて、soluble TNF-α receptor(sTNFR)、interleukin(IL)-6、vascular endothelial growth factor (VEGF)、myeloid-related protein (MRP) 8/MRP14、S100A12、soluble receptor for advanced glycation end products (sRAGE)の動態を検討した。また健常群33例および川崎病IVIG反応群18例とIVIG不応群14例についても動態を解析し、インフリキシマブ投与群と比較検討を行った。【結果】インフリキシマブ投与例11例中8例が、投与後に臨床症状の改善が認められた。3例はインフリキシマブ投与後も臨床症状が改善せず、炎症反応が遷延し、IVMPの再投与およびサイクロフォスファマイドの投与を余儀なくされた。11例中4例において、冠動脈病変を認めたが、インフリキシマブ投与前より冠動脈病変が認められていた。IVIG反応群ではIVIG投与前において、STNFR、IL-6、VEGF、 MRP8/MRP14、S100A12は健常群との比較では有意に高値であったが、IVIG投与後に有意に低下した。IVIG不応群ではIVIG投与前後において、STNFR、IL-6、VEGF、 MRP8/MRP14、S100A12は有意に高値を示し続けた。インフリキシマブ投与例ではSTNFR、IL-6はインフリキシマブ投与前に有意に高値を示し、投与後に低下したが、MRP8/MRP14およびS100A12はむしろインフリキシマブ投与後に増加し、VEGFは変化なく高値を示し続けた。【総括】本研究により、インフリキシマブは難治川崎病における有効な治療法のひとつであることが示された。またインフリキシマブ治療によりMRP8/MRP14やS100A12といったPAMPおよびVEGFが抑制されなかったことは、全身の炎症機転はインフリキシマブにより抑制されても、局所の血管炎は抑制されないことが示唆され、冠動脈病変の悪化を十分に阻止できない可能性が示された。そのため、難治川崎病においては、インフリキシマブを早期投与することで、単球・マクロファージの活性化を抑え、血管炎の進展を防止することが望ましいと思われた。
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