GM1-ガングリオシドーシスは小児期に重篤な神経症状を示す遺伝性ライソゾーム病の一つで、ライソゾーム加水分解酵素β-ガラクトシダーゼの遺伝子的欠損により、GM1-ガングリオシドなどの基質の蓄積を引き起こす。現在まで、私達が開発しているケミカルシャペロン療法を除き、中枢神経障害に対する根本的な治療法はない。また、神経細胞内の基質の蓄積が細胞障害の引き金になっているのは間違いないが、その詳細な分子機構は不明である。本研究課題では、乳児型GM1-ガングリオシドーシスモデルであるβ-ガラクトシダーゼ遺伝子欠損マウスを用い、脳組織の遺伝子発現変動をマイクロアレイ発現解析により検討を行った。また、パスウェイ解析を行った結果、シグナル伝達、細胞内輸送、細胞死、炎症反応や蛋白質分解系などの機能パスウェイに関連する遺伝子の発現変動を認めた。このうち蛋白質分解系について蛋白質発現解析を行った。siRNAでβ-ガラクトシダーゼ遺伝子ノックダウンした培養神経芽細胞腫細胞由来Triton不溶性膜画分において、ユビキチン化蛋白質およびユビキチン結合蛋白質p62の発現が正常マウスに比べ有意に上昇していた。また、神経症状発症後の9ヶ月齢のモデルマウス脳組織においても、神経細胞内GM1蓄積小胞にp62とユビキチン化蛋白質の蓄積を認めた。この結果はGM1-ガングリオシドーシスマウス神経細胞内の基質蓄積により二次的にユビキチン化蛋白質の分解異常が引き起こされていることを示唆する。今後、細胞内に蓄積するユビキチン化基質蛋白質をプロテオームなどの手法により同定し、また熱ショック蛋白質などの発現によるプロテアソーム分解の活性化の蓄積と細胞障害に及ぼす影響を検討することで、神経変成との関連を明らかにし、治療法の標的としての有効性を検討する。
|