本研究の目的は、ヒトARPKDの原因遺伝子と相同遺伝子変異により発症するSD系統の自然発症PKDモデルであるPCKラットにおける嚢胞形成機序を明らかにするために、病的尿細管上皮細胞における極性の欠如の機序を解明することである。特に細胞接着分子であるE-カドヘリンとβカテニンの複合体形成が尿細管上皮細胞の極性を誘導する過程の第一段階であることから、E-カドヘリンが細胞膜の陥凹を介して小胞を形成し、細胞内に取り込まれること(エンドサイトーシス)の異常が、嚢胞形成に関与しているのではないかという仮説のもと研究を行なった。 まず、生後1日、1週、3週、10週、14週、4月のPCKラットおよび同令のSDラット(対照)各令5匹ずつから、腎および肝の検体採取を行い、一部-80度で凍結保存した。E-カドヘリンおよび、βカテニンの細胞内局在をそれぞれの抗体を用いて免疫組織化学的手法により同定した。また嚢胞形成部位の同定にはPHA-Eレクチン、Tamm-Horsfall protein、CalbindinD 28k、aquapolin2等をマーカーとして用い、尿細管部位特異的に検討した。SDラットにおけるE-カドヘリンの発現は近位尿細管で少なく、特に腎髄質外層のヘンレループ、集合管において強かった。PCKラットにおける嚢胞形成部位はE-カドヘリンの発現の強い部位で顕著であった。βカテニンの発現はE-カドヘリンと同様であった。また本研究の仮説の根底となる極性の欠如がPCKラットにおいても存在することを、抗Na^+-K^+-ATPaseモノクローナル抗体を用いて、免疫組織化学的手法により検討した。結果、嚢胞性上皮細胞においてNa^+-K^+-ATPase(α-subunit)の発現は認められず、極性の異常が示唆された。さらに、これらの病態に上皮間葉移行が関与することをつきとめ、さらなる病態解析を進める予定である。
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