研究概要 |
【研究の目的】 我々はこれまでに免疫正常な乳幼児ロタウイルス胃腸炎入院患児に対し、ウイルス学的解析を実施し抗原血症の確認ならびにウイルス抗原量と全身症状との関連性を明らかにした。今回は、造血幹細胞移植を受けた免疫抑制状態にある患児において、ロタウイルス抗原血症の解析および全身症状との関連性を解析した。 【材料と方法】平成16年9月から平成19年2月に名古屋大学小児科および名古屋第一日赤小児医療センターにて造血幹細胞移植(HSCT)を受けた入院患児68名(男児42名、女児26名:平均年齢8.2±5.1歳)を対象とした。被検検体には、移植後約1週間毎に経時的に採取された690の血清サンプルを用いた。A群ロタウイルスに広く反応するVP6に対するモノクローナル抗体(YO-156)を用いたEIA法にて、被検血清中のウイルス抗原量を測定した。下痢、発熱、肝機能障害などの臨床症状は診療録を後方視的に調べた。 【結果】690検体中61検体(68人中10人)からロタウイルス抗原が検出された。10人中9人では長期間(2~11週間)ロタウイルス抗原血症が持続していた。この中には長期の抗原血症陽性期間中に、下痢や肝機能障害が持続していた症例もあった。残り1人は散発的にウイルス抗原陽性となった。健常人の第1病日(0.49±0.18:P<0.0011)、第3病日(0.63±0.09:P<0.005)のロタウイルス胃腸炎患児血清とHSCT患児の抗原量(0.19±0.20)を比較したところ、いずれも前者が有意に高く、健康児の第5病日(0.22±0.19)血清とHSCT後の抗原量(0.19±0.20)に有意差はなかった(P=0.9060)。 【考察】免疫抑制状態にある患児では、免疫正常者に比べ長期間抗原症が持続していた。このような症例の中には、抗原血症の時期に一致して胃腸症状、発熱および肝機能障害などの症状がおこりGVHDとして認識されていたものもあった。今後は、このロタウイルス抗原血症の病態を更に解明するために、RT-PCR法によるgenome検出,ELISA法によるロタウイルスIgG抗体測定が必要と考えている。
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