本研究では、ミトコンドリア病の一次的要因となりうるミトコンドリア機能障害を患者組織由来の細胞レベルで検出しうる生化学的機能解析法を新規に創出することを目指し、細胞内エネルギー産生に関与するミトコンドリア電子伝達系、クエン酸回路、解糖系中の主要な酵素群に対する機能解析技術を構築した。 市販の細胞株(HeLa細胞)およびHeLa細胞からの単離ミトコンドリアを用い、解析対象であるミトコンドリア呼吸鎖複合体I、II、III、IV、V、クエン酸合成酵素、ピルビン酸脱水素酵素の機能活性をミトコンドリア・細胞レベルで定量解析可能とした。また、単離ミトコンドリアを用い、他のミトコンドリア電子伝達系構成因子であるチトクロームc存在量の定量化、補酵素Q10の酸化還元状態の検出に成功した。さらに、Blue nativeゲル電気泳動の手法を用い、ミトコンドリア呼吸鎖複合体I、II、III、IV、Vの分子構造の検出手段を確立した。 一方、ミトコンドリアはエネルギー産生のみならず、酸化ストレス、各種シグナル伝達、アポトーシスなどの制御を司っていることが知られている。本研究では、培養細胞を用いたミトコンドリア特異的な活性酸素種の検出、膜電位変化依存的なタンパク輸送能の解析、活性型カスパーゼ依存的なアポトーシス細胞死の検出にも成功しており、ミトコンドリア機能の多様性に対応した包括的生化学機能解析の方法論が確立できた。 本研究成果から、患者より採取した生検材料(筋肉・皮膚組織)由来細胞および単離ミトコンドリアに対し、タンパク・ミトコンドリア・細胞レベルでの包括的生化学機能解析を導入することで、ミトコンドリア病における新規変異の病因性の検討や病態発生の機序の解明が期待できる。現在、従来の病理組織学的解析・分子遺伝学的解析のみでは確定診断に至らなかった患者群を対象とした生化学的機能解析を実施している。
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