本研究では、ミトコンドリア病の一次的病因であるミトコンドリア機能傷害を患者組織由来の培養細胞レベルで検出しうる新規な機能診断技術の創出を目指した。ミトコンドリア電子伝達系構成因子群の機能・分子構造の解析、エネルギー代謝、酸化ストレス、タンパク輸送能の解析などミトコンドリア機能の多様性に対応した網羅的・体系的機能診断技術の方法論を確立した。これまでの病理組織学的・分子遺伝学的解析では確定診断に至らなかったミトコンドリア病患者群より採取した生検材料(筋肉・皮膚組織)から培養細胞株を樹立し、上述の網羅的・体系的機能診断技術を適用した。いくつかの代表的な結果を以下に示す。 1、ミトコンドリアDNA上のtRNA遺伝子群中に新規に検出された種々の変異に対して分子レベルでの病原性を同定したと同時に、これらの変異により誘発されるミトコンドリア特異的なtRNA翻訳機構の異常を一次的病因とするミトコンドリア・細胞レベルでの病態発症機構の分子基盤をそれぞれ解明した。 2、病理組織学的解析にてCOX欠損症と診断された患者群から、COX複合体特異的な機能・構造異常に起因するATP産生量低下、酸化ストレス上昇、細胞増殖能低下、アポトーシス惹起などの細胞生物学的・生化学的異常を呈する重篤な症例群を同定した。本結果は、同一疾患においても病態の発症機序や症状の重篤度に明確な差異が存在することを示唆している。 本研究結果から、ミトコンドリア病患者由来組織より樹立した培養細胞に対する網羅的・体系的機能診断技術は、多様なミトコンドリア機能(エネルギー代謝、酸化ストレス、各種シグナル伝達、アポトーシスなどの制御)の全体像を分子・タンパクレベルで解析可能とし、新規変異の病原性の検討や病態の発生機序の解明などに極めて有用であることが示唆された。
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