我々は胎生期にエタノール曝露された成熟ラットを用いて、高架式十字迷路試験と強制水泳試験(単回曝露)の2種類の行動試験により不安様行動の解析を行い、更に不安との関連が深いとされるセロトニン(5-HT)神経細胞を中脳縫線核で計測した。 妊娠10〜21日の間、SDラットに2.5〜5%(w/v)のエタノールを含む液体飼料を与え、その仔を60〜70日齢で各実験に用いた(Et群)。対照(PF群)にはエタノールをsucroseで置き換えた液体飼料を与え、無処置群には固形飼料を与えた(Int群)。高架式十字迷路試験ではEt群は他の2群と比較してopen armでの滞在時間が有意に増加していた。げっ歯類では不安が強いほどopen armでの滞在時間が減少することから、Et群は不安・恐怖への感受性が低下していることが考えられた。また強制水泳試験でEt群はPF群、Int群と比較して無動時間が有意に低下しており、高架式十字迷路試験と同様に不安・恐怖への反応性低下が示唆された。免疫組織化学的観察では、背側縫線核と正中縫線核の両方で5-HT神経細胞数が減少していた。中脳縫線核、特に正中縫線核の5-HT神経は、不安・恐怖への感受性に関与していることが過去の報告から示唆されている。これらのことを踏まえて来年度は、5-HT神経とその投射路を詳しく解析すると共に、不安の多様性を視野に入れた行動解析を行うことで胎生期アルコール曝露によって障害される脳部位と行動異常との関連を明らかにしていくつもりである。
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