研究概要 |
妊娠SDラットに10~21日の間2.5~5.0%エタノール含有液体飼料を与え、その仔(Et群)を各解析に用いた。対照群にはエタノールを等カロリーのショ糖で置換した液体飼料を与えた母獣の仔(Pf群)と固形飼料を与えた母獣の仔(Int群)を用いた。 まず胎生期エタノール曝露による発達期のセロトニン(5-HT)神経系への影響を調べるために、胎生20日齢、生後2,4,7,21,28日齢で各群の全脳を採取しホモジナイズして、5-HT及び5-HIAA量をHPLCにて解析し比較した。投与中である胎生20日齢ではEt群の5-HT及び5-HIAA量はPf,Int群と比較して有意に減少していたが、生後2,4,7日齢では逆に顕著な増加が見られ、以降の日齢では差が見られなかった。次に前年度に見られた高架式十字迷路試験での結果を詳しく解析するために、生後60~70日齢で高架式T字迷路試験を行った。Closed armからopen armに出るまでの潜時を連続で3回(受動的回避行動=conditioned fearの発現)とopen armからclosed armに出るまで(回避行動=unconditioned fearの発現)の潜時を1回(逃避行動=unconditioned fearの発現)、それぞれ30秒のインターバルをおいて測定した。Et群ではPf,Int群と比較して逃避行動には差は見られなかったが、受動的回避行動は抑制されていた。更にunconditioned fear発現をより詳しく解析するために、高架式プラットホーム試験にて強照明(直接照明、6001ux)による強い不安・恐怖を与えすくみ時間を測定したところ、Et群では有意にすくみ時間が増加していた。 これらのことから胎生期エタノール曝露を受けたラットは、conditioned fear発現が抑制されており、unconditioned fearは不安・恐怖の強度が強い場合に正常なラットより発現が促進されることが示された。またこのような不安発現の異常は、本研究で見られたような発達期の5-HT動態の異常が、5-HT神経系の投射部位であり不安・恐怖の発現に密接に関与する前頭皮質、扁桃体、中心灰白質の発達に影響を与えたことに起因している可能性が推察され、今後はこの点に注目して研究を進めていく必要がある。
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