ドプラ心弁信号および大動脈波微小変位計測法を用いて、胎児心循環不全例の抽出およびモニタリング法を策定し、本症の病態形成過程を明らかにすることを目的とし本研究を開始した。平成20年度は、妊娠20週以降の正常発育胎児におけるドプラ心弁信号から抽出される心時相ならびに大動脈波微小変位計測法から計測される脈波のnomogramを作成した。さらには、子宮内胎児発育遅延、胎児水腫、胎児心臓腫瘍、胎児仙尾部奇形腫といった循環障害が起こり得る胎児疾患を中心に妊娠経過における超音波検査による下行大動脈ならびに下大静脈のドプラ血流、尿産生率の計測と同時に上記指標をモニタリングした。その結果、胎児循環障害発生過程において心機能障害、末梢循環障害が各々発生すること、超音波検査での変化が出現する以前から心機能障害ならびに末梢循環障害が発生していることが明らかとなった。さらには胎児水腫症例においては胸腔羊水腔シャントによる胎児治療前後での同指標の計測により、これまで明らかとされていなかったシャントによる治癒機序が明らかとなった。つまり、胸水という外圧により心ポンプ機能が阻害され心収縮能が低下していた心臓が、シャントによる胸水除去により心収縮能が亢進することにより胎児水腫の改善を得ていた。本研究を始めるにあたり、疾病胎児における心循環機能変調の機序を明らかにする、疾病胎児の胎内治療における機序ならびに効果判定に用いることが可能な計測法であるか判別するという目的を設定した。20年度は、本計測法を用いた正常胎児の経時的変化、数例の疾病胎児における計測値の変調を確認できた。これは、妊娠進行にともなう胎児心弁信号および脈派波形の変化が明らかとなったとともに、心循環不全例における逸脱過程を判定する手法として有用であると考えられた。
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