ドプラ心弁信号および大動脈波微小変位計測法を用いて、胎児心循環不全例の抽出および疾病胎児の心循環不全状態への逸脱過程を明らかにすることを目的とし本研究を開始した。平成21年度は、子宮内胎児発育遅延、胎児水腫、胎児心臓腫瘍、胎児仙尾部奇形腫といつた循環障害が起こり得る胎児疾患を中心に妊娠経過における超音波検査による下行大動脈ならびに下大静脈のドプラ血流、尿産生率の計測と同時に上記指標をモニタリングした。その結果、胎児循環障害発生過程において心機能障害、末梢循環障害が各々発生すること、超音波検査での変化が出現する以前から心機能障害ならびに末梢循環障害が発生していることが明らかとなった。仙尾部奇形腫等、胎内で妊娠の経過とともに高拍出性心不全となる疾患群では、循環動態が逸脱する過程においてまず心収縮能が亢進すること、その後に心収縮能の低下とともに胎児水腫を招来することが明らかとなった。つまり、高拍出性心不全を来たすと考えられている胎児疾患においてはドプラ心弁信号を用いて心収縮能を観察し、非代償性の心機能不全状態と考えられる胎児水腫を発症する以前に新生児治療へ移行することが本疾患群の予後向上へ結びつくことがわかった。さらに胸水貯留胎児では胸腔羊水腔シャントによる胎児治療前後での同指標の計測により、これまで明らかとされていなかつたシャントによる治癒機序が明らかとなった。つまり、胸水という外圧により心ポンプ機能が阻害され心収縮能が低下していた心臓が、シャントによる持続的胸水除去によって心収縮能が亢進し胎児水腫が改善することがわかった。ドプラ心弁信号および大動脈波微小変位計測による心循環不全評価法は、疾病胎児における心循環機能変調の機序を従来の胎児超音波検査よりも早期に捉えることができること、疾病胎児の胎内治療における効果判定に有用であることが明らかとなった。
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