我々は、以前より癌細胞におけるToll-like receptors(TLRs)の発現とその機能について注目して研究を進め、免疫細胞と同様にメラノーマ細胞は機能的なTLRsを発現しており、リガンドの刺激によりサイトカインやインターフェロンを分泌し、その運動性や浸潤能が亢進することを証明した。今回は、癌細胞に発現するTLRsの機能について明らかにするためにTLRsやその下流のアダプター分子であるMyD88のsiRNAを用いて癌細胞に発現するTLRsを抑制したときに生じる癌細胞への影響について検討した。まず、TLR4およびMyD88の発現を有意に抑制できるsiRNAを作成した。発現の抑制は定量PCRを用いて確認した。TLR4およびMyD88のsiRNAを、TLR4を強く発現しているメラノーマ培養細胞に導入したところ、コントロールsiRNAを導入した細胞に比べて有意に増殖能が抑制された。一方、TLR4を発現していないメラノーマ培養細胞に導入したところ増殖能は抑制されなかった。さらに、同様の細胞を用いてメラノーマ細胞の移動能も検討したところ、TLR4およびMyD88のsiRNAを導入したメラノーマ細胞においては、コントロールのsiRNAを導入した細胞に比べて有意に移動能が抑制された。以上のようなin vitroの実験の結果から、メラノーマ細胞に発現するTLR4やMyD88を抑制することにより、メラノーマ細胞の増殖や転移を抑制できる可能性が示唆された。現在、マウスを用いてin vivoにおける同様の実験を開始しているが、in vivoにおいても同様の結果が得られるのであれば、TLR4やMyD88はメラノーマ細胞の増殖や転移を抑制する分子標的になりうると考えられる。
|