メラノーマは、悪性度の極めて高い皮膚がんの一種である。メラノーマ細胞では特徴的な酸性糖脂質の発現が見られ、特にジシアリル糖脂質GD3は原発巣の腫瘍組織やメラノーマ細胞株などに普遍的に発現している。メラノーマ細胞においてGD3はその悪性形質の発現に重要であり、GD3が脂質ラフトで増殖や接着のシグナルを増強していることが示唆されている。しかし、GD3依存的な悪性形質発現の分子メカニズムは十分に理解されていない。研究代表者は、脂質ラフトを中心にしたGD3依存的なシグナルの変化とその分子基盤を理解することを目的に、脂質ラフト構造の形成に重要なコレステロールを中心にした脂質代謝について研究を行った。その結果、GD3の発現がコレステロール合成を調節する因子となっていることが示された。また、コレステロール生合成に関与する様々な酵素遺伝子の転写を制御する転写因子SREBPの活性化もGD3発現メラノーマ細胞で亢進していた。さらに、ヒトメラノーマ細胞におけるSREBP活性化の機序につき解析を行った結果、Akt及びその下流のmTORC1が関与していることが明らかになった。また、細胞増殖因子IGF-1は、コレステロール生合成を短時間のうちに活性化させたが、Aktシグナルを阻害することでこのコレステロール生合成の亢進は阻害された。そして、SREBP経路の阻害は、脂質ラフト内の活性化Aktレベルを減少させることも示された。以上の結果より、ヒトメラノーマ細胞において、SREBPの活性化はPI3K-Akt-mTORC1シグナルによって制御されており、SREBP依存的なコレステロール合成は脂質ラフトにおけるAktの活性化を調節していることが示唆された。これらの結果は、SREBP経路がメラノーマ制御の新しい治療標的となりうることを示唆するものである。
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