研究概要 |
近年、皮膚および毛包に存在する毛包上皮幹細胞(hair follicle epithelial stem cells : HFESCs)は、多分化能を有することから創傷治癒や熱傷、脱毛症といった疾病に利用できるソースとして注目されつつある。しかしながら、HFESCsについての研究はまだ十分とはいえないため、本研究では、HFESCsのキャラクタリゼーションおよび分化メカニズムの解明を目的とし、特に我々が最近注目しているWntシグナルを中心に解析を進めた。前年度、HFESCsをマウスの背部皮膚組織よりFACSを用いてCD34+,CD49f+分画のソーティングを行うことで単離に成功した。また、単離HFESCsにWnt-3a、Wnt-5a、Wnt-10b、Wnt-11組換えタンパクを添加し、in vitro培養を行った結果、HFESCsの細胞増殖、分化に対する影響が、種々のWntにより異なることが明らかとなった。そこで、本年度はcanonical pathwayを介したWnt-3a、Wnt-10bに焦点を絞り、更なる解析を進めた。単離HFESCsに対し、Wnt-3aは未分化な状態を維持しつつ、分化誘導にも働き、一方でWnt-10bは、分化誘導にのみ働くという新しい作用を見出した。さらに、Wnt-3aには、分化誘導した細胞に対し、未分化な細胞に働きかける重要な環境(niche様環境)をin vitroで作りだす重要な因子であることが明らかとなった。また、in vivoの解析結果から、Wnt-3aは長期継代においても未分化細胞を維持し、毛包構築できることが明らかとなった。
|