本研究は、Notchシグナルによって発現が制御されるこれまでに知られていなかったマスト細胞の機能、特にT細胞の活性化・獲得免疫反応の誘導に関わる働きを解明し、アレルギー炎症性疾患や自己免疫疾患の発症・増悪機序に関する新規の知見を得ることを目的としている。昨年度の研究により、マスト細胞はNotchリガンドDelta-like 1 (Dll1)の刺激でMHC class II及び補助刺激分子OX40リガンドの発現が誘導されヘルパーT細胞に対する抗原提示細胞となること、T細胞を直接活性化しTh2細胞への分化を誘導することを明らかにした。本年度は、Notchシグナルがマスト細胞にMHC class IIの発現を誘導する分子的な機序の解明を目指し研究を行った。 マスト細胞上にはNotch1とNotch2が恒常的に発現している。マウス骨髄由来マスト細胞を用いた解析から、1.Dll1刺激によるMHC class II発現誘導はNotch1を介したシグナルに依存していること、2.MHC class IIの発現は転写活性化因子CIITAによって直接制御されるが、NotchシグナルはCIITAのプロモーターIIIを活性化してCIITAの転写を誘導すること、3.NotchシグナルによるCIITA転写には転写調節因子PU.1のプロモーターIIIへの結合が重要であることを明らかにした。これらの結果は、Notch1由来のシグナルがPU.1の活性化を介してCIITAプロモーターIIIからのCIITA転写を誘導し、最終的にMHC class II発現が誘導されることを示している。本研究は、マスト細胞におけるMHC class II発現のメカニズム及びNotchシグナルがMHC class IIの発現を制御することを初めて明らかにした。
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