我々は、アトピー性皮膚炎(AD)の難治性痒みの発生機序を神経反発という全く新しい観点から研究する着想に至り、AD表皮でSema3A発現が低下し、これが神経線維の表皮内侵入を促進することを世界で初めて報告した。昨年、横浜市立大学の研究グループは、ADを発症したNC/Ngaマウスの皮内にリコンビナントSema3Aを投与すると、掻破行動と皮膚炎が改善することを示した。そこで、我々は、当初の研究計画方針を変更し、NC/NgaマウスのAD病変部に、リコンビナントSema3A軟膏を塗布することで、Sema3A外用による止痒効果と皮膚炎改善効果を検討した。本研究では、NC/Ngaマウスの背部にビオスタAD軟膏(コナヒョウヒダニ虫体成分)を反復塗布することで、AD様症状を誘発した。コントロール群と比較し、ビオスタAD群では掻破行動および皮膚炎が認められ、血清中IgEレベル、経皮水分蒸散量の増加も確認された。さらに、ビオスタAD群の病変部では、表皮肥厚、炎症性細胞(好酸球、マスト細胞、CD4陽性T細胞)浸潤増加、NGFの発現増加とSema3Aの発現低下、表皮内神経線維の稠密化、VEGFの発現増加と血管(PECAM-1陽性)の稠密化が観察された。次に、Sema3A軟膏を調製し、Sema3A軟膏外用前後で、ビオスタAD-NC/Ngaの皮膚炎の程度および掻破行動を評価した。Sema3A軟膏は、1日1回、連日4日間のスケジュールでビオスタAD-NC/Ngaの病変部に塗布し、外用終了3日後から評価を開始した。コントロール軟膏(基剤)群と比較し、Sema3A軟膏群では著明な皮膚炎の改善が認められたが、掻破行動は抑制傾向を示すものの更なる検討の必要性が示唆された。本研究成果は、将来的に、ADの難治性痒みと炎症の両方を同時に抑制する新規Sema3A外用剤開発の基礎を確立するために大変意義がある。
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