本研究では、白斑症の原因の一つがメラノサイトやメラノブラストの移動の異常によって生じると仮定し、その証明と原因となる分子メカニズムを解明することを目的とした。 1)昨年の研究結果より、安定なbeta-cateninを核で発現するメラノサイト(bcat^<sta>)は、ファイブロネクチン上において野生型メラノサイトよりも移動速度が遅い可能性が示された。本年は、同実験結果を数理モデルを用いて証明することに成功した。また、この方法により、野生型メラノサイトは、ファイブロネクチン濃度依存的に移動速度が顕著に増加するが、bcat^<sta>メラノサイトの移動速度は、その影響が非常に小さいことがより信頼性の高い方法で証明された。Beta-cateninが関与する白斑症状には、足場の中でもファイブロネクチンが関与していることを数学的方面からも証明することができた。 2)bcat^<sta>メラノサイトと野生型メラノサイトを、形態学的に比較した。細胞をファロイジン染色し、F-アクチンの配向を観察したところ、野生型メラノサイトにはアクチンが重合した大きなラメリポディアが存在するのに対し、bcat^<sta>メラノサイトでは、ラメリポディア構造が小さいことが判明した。また、細胞と基質との接着部分である接着斑を抗vinculin抗体で検出したところ、bcat^<sta>メラノサイトでは、接着斑の数が少ないことが分かった。細胞のmotilityに必要である、アクチンと接着斑の配向から、bcat^<sta>メラノサイトの移動能の減少には、アクチンと接着斑の変化が関与している可能性が示された。 3)2)の結果を踏まえ、細胞の移動に関わるRhoファミリータンパク質の活性を、bcat^<sta>メラノサイトと野生型メラノサイト間で比較した。野生型メラノサイトでは、bcat^<sta>メラノサイトよりも高いRac1活性が検出され、beta-cateninがメラノサイトの移動能を低下させる可能性があることを、分子面からもより確実なものとすることができた。
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