強迫性障害(OCD)は頻度が高く、繰り返しわき起こる不快な強迫観念とそれによって生ずる強い不安を打ち消すための強迫行動を特徴とした苦痛の大きい精神疾患である。行動療法、抗うつ薬による治療効果は限定的で、新しい作用機序に基づく治療が切望されている。近年の画像研究を踏まえ、本研究はOCD病態におけるグルタミン酸神経系の関与を研究し、新しい創薬ターゲットとしての有用性を探ることにある。まず、グルタミン酸代謝関連機能的遺伝子変異の探索と解析を目的に、その対象遺伝子をグルタミン酸トランスポーターの中から、SLC1A1およびSLC1A3を選択した。一塩基置換(SNP)は、それぞれの遺伝子のプロモーター領域及び近傍から、マイナーアレル頻度10%以上のSNPをそれぞれより3つと4つを同定して、健常者(n=314)とOCD(n=51)のDNAサンプルを対象に頻度を解析した。アレル頻度は、OCDにおいては健常者との間に差を認めなかったが、SLC1A3に関しては、ハプロタイプ解析において、健常者との間に統計的に有意な差を発見した。SLC1A3は、シナプス間隙におけるグルタミン酸回収に関わっており、その変異がOCDの病態に関わっている可能性が示唆された。一部の患者からは神経栄養因子(BDNF)を測定し、健常者との間で比較した(OCD41名、健常者37名)。その結果は、以外にもOCD患者の方が有意にBDNF濃度が高く(t検定、p=0.001)、BDNFが低いことが多数報告されているうつ病などとは、病態におけるBDNFの役割が異なっていることが示唆された。BDNFはグルタミン酸代謝によって変化することが知られているため、OCDでのグルタミン代謝がこれに関係しているかは興味深い問題である。そこで、磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)による生体脳におけるグルタミン酸測定を行う予定であったが、健常者の測定は終えているが(n=21)、OCD患者測定は今後の予定である。
|