高齢うつ病においては脳器質的要因が大きく関与するということは周知のことであり、MRI所見をもとにVascular Depressionという疾患概念も提唱されている。本研究では、まだ十分に解明されていない高齢うつ病の病態生理について脳波/事象関連電位とMRIを組み合わせて包括的解析を試みる。これまで我々の教室では、脳波における側頭部徐波が微細な脳血管障害を示唆する所見であることを明らかにするとともに高齢うつ病においてその出現頻度が高く、さらに所謂EEG-defined Vascular Depressionとしてその臨床的特徴を報告してきた。本年度はまず、60歳以上の健常者を対象に双極子追跡法を用いて側頭部徐波の脳内信号源推定を行い、一部の症例においては被験者自身のMRI上に推定された信号源をplotした。側頭部徐波の信号源が側頭葉内側面(海馬や海馬傍回付近)に存在することが明らかとなり、新たな3次元の精神生理学的指標を確立した。認知機能バッテリーとして聴覚事象関連電位のひとつであるP300の測定およびSPMによる統計学的画像解析に向けたMRI撮像については予備的実験に続いてdata収集を開始した。平成21年度以降もdata収集を継続し、統計学的解析を行い、新たな3次元の指標の臨床的意義を深める。さらに健常者で得られた解析結果を基盤とし、高齢うつ病の病態について新たな指標を用いて治療反応性も含めた多角的な解析を目指す。
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