研究概要 |
我々の教室では、高齢者にみられる側頭部徐波が微小脳梗塞のような微細な脳血管性障害と関連がある(Inui et al., 1994; Inui et al., 2001)、高齢うつ病においてその出現頻度は高く、この脳波所見を有するうつ病の臨床的特徴(Motomura et al., 2002)について報告してきた。更に双極子追跡法を用いて、この側頭部徐波の信号源が側頭葉内側面(海馬や海馬傍回)にみられることを明らかにした。高齢うつ病には器質的要因が大きく関与することは周知のことであり、本研究の目的は、脳波/事象関連電位とMRIを組み合わせ、これまで報告してきた側頭部徐波を指標として高齢うつ病の病態について包括的解析を試みることであり、1) 側頭部徐波の神経生理学的意義の解明;2) その指標を用いた高齢うつ病の病態解明の2本柱で研究を進めている。 平成21年度は21名の健常者を対象として3テスラMRI装置により撮像を行い、得られたT1強調画像から3次元データを再構成した。側頭部徐波の有無によって2群に分け、SPM2によるvoxel based morphology法を用いた脳形態画像解析を行った。この側頭部徐波の信号源である側頭葉内側面の灰白質において両群に差はみられなかった。側頭部徐波は海馬や海馬傍回のatrophyなどの解剖学的変化を伴わない機能変化を示唆するという可能性が考えられる。まだ少数例での検討のため、引き続きdata収集および解析を行う。更に、この徐波の信号源が海馬付近にみられるということから認知機能バッテリーとして聴覚事象関連電位のP300についてもdata収集を開始した。 最終年度には統計学的画像解析と事象関連電位の所見を組み合わせ、側頭部徐波の3次元精神生理学的所見として確立し、さらに健常者とうつ病患者との比較を行い、高齢うつ病の病態解明を目指す。
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