研究概要 |
高齢うつ病はその他の年代にみられるうつ病とは異なり、なんらかの脳器質的要因が関与する可能性は周知のことである。我々は高齢者にみられる側頭部徐波が単なる加齢による変化ではなく、なんらかの脳血管性障害と関連することを報告した(Inui et al.,1994;Inui et al.,1998,Inui et al.,2001)。さらにこの脳波異常と高齢うつ病者の検討を行い、この脳波所見を精神生理学的指標として高齢うつ病のある一群を抽出できないかと考えている(Motomura et al.,2002;Motomura et al.,2003)。精神生理学的指標としての意義を確立するために、聴覚事象関連電位のひとつであるP300、脳構造学的検討として3T MRI装置によって撮像を行い、得られたdataをSPM2によるvoxel based morphometry(VBM)法を用い、健常者を対象としてこの脳波所見の有無によって2群に分類して検討を行った。健常者における脳波所見の有無において統計画像解析上は差がみられないものの、この側頭部徐波を有する健常者においてP3の潜時に延長がみられた。P3の信号源は側頭部徐波のそれと同じく側頭葉内側面(海馬)と考えられており、側頭部徐波はおそらく海馬の機能異常を示唆するものと考えられた。少数例ではあるが、この徐波を有する健常者と高齢うつ病者の差異を検討したところ、高齢うつ病者群において海馬灰白質体積の減少がみられた。側頭部徐波を有する高齢うつ病は海馬の機能低下に加えて海馬委縮を伴う器質的要因の強い一群である可能性が示唆された。今後更に症例数を増やし、この仮説について引き続き検討を行う予定である。
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