本年度は、血管性うつ病の認知機能障害の神経基盤を明らかにするため、DSM-IVで大うつ病性障害の診断基準をみたし回復期にある高齢うつ病患者20例を対象に言語流暢性課題遂行中の脳活動をfMRIで測定し、潜在性脳梗塞のある群とない群にわけて解析を行った。 潜在性脳梗塞を認めたのは20例中9例で、潜在性脳梗塞を認める群は、そうでない群と比較して有意に言語流暢性課題の成績が低下していた(p<0.05)。 fMRIで測定した脳賦活パターンは両群で若干異なるものの、両群とも左前頭前野や前帯状回において有意な賦活を認め、群間比較では有意に賦活の程度が異なる領域は認めなかった。 次に課題遂行中の脳領域間の機能的結合を比較するため、psycho-physiological interaction解析を行った。その結果、潜在性脳梗塞をもつうつ病患者では、そうでない患者と比較して言語流暢性課題遂行中に前帯状回と左前頭葉の機能的結合が有意に低下していることが明らかとなった(p<0.001(uncorrected)on the single-voxel level and p<0.05(corrected)on the cluster level)。 これらの結果から、うつ病において潜在性脳梗塞は皮質の賦活機能には影響しないものの、白質神経線維の障害を介して、皮質間の機能的結合を変化させることで、血管性うつ病の認知機能障害に関与していることが推測された。 血管性うつ病では、潜在性脳梗塞を持たないうつ病と比較して認知機能障害が顕著であることが知られているが、その神経メカニズムについてはほとんど研究が行われておらず、本研究による知見は、血管性うつ病の病態解明において意義深いものと考えられた。
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