研究概要 |
本年度はうつ病における認知障害メカニズムを明らかにするため、うつ病患者と健常者における自己・世界・将来の認知に関する脳機能の検討を行った。まず自己に関連した認知機能を機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて検討した。ポジティブ或いはネガティブな形容詞が自分に当てはまるかどうかを判断する自己関連づけ課題において、内側前頭前野と前帯状回が重要な働きを担っており、うつ病患者ではこの領域に亢進が認められたことから、うつ病患者では自己関連づけの処理に関して障害がみられることを報告した(Yoshimura et al., in press)。世界に関連する認知機能を調べた実験では、健常者における社会的痛みの神経メカニズムと情緒的サポートによるその緩和の検討を行った。社会的排斥課題を行ったところ、前帯状回が主観的な痛みと相関を示しており、この領域の活動は他者からの情緒的なサポートによって低減した(Onoda et al, 2009)。この知見は心理的な痛みとその緩和を理解する上で重要な結果といえる。同様に将来に関する認知機能を、警告刺激によって情動刺激を予期させる課題を遂行中の健常者の脳活動をfMRIにて検討した。その結果、扁桃体や前帯状回を含む辺縁系システム、前頭前野、及び視床-視覚野の知覚領域が賦活することを明らかにした(Onoda et al, 2009)。さらにパス解析により、辺縁系の警告反応を受けて、前頭前野が知覚領域をトップダウン的に制御している可能性を示唆するモデルを得た(小野田ら、2009)。これらの研究から、うつ病が抱える認知的障害の多くは前頭前野の機能不全に依存してる可能性が示唆される。
|