研究概要 |
うつ病を含む気分障害発症の背景に、海馬での神経新生の障害が指摘されており、抗うつ薬と気分安定薬の治療効果には、脳由来神経栄養因子(BDNF)産生放出の増加と神経新生の促進が関与する可能性が示唆されている。一方、脳内マクロファージ(ミクログリア)活性化はBDNFのほか、炎症性サイトカインやフリーラジカル等の神経細胞障害因子を放出し、神経新生に大きく影響する。本研究は抗うつ薬・気分安定薬およびBDNFによるミクログリア活性化の制御メカニズムを解明することにより、気分障害の病態把握と治療薬開発に資することを目的とした。 ミクログリアにおけるBDNFの細胞内Ca^<2+>動態への作用については過去に報告がなかったが、申請者らはミクログリアにおいてBDNF投与数秒以内に[Ca^<2+>]iが持続的に上昇する現象を見出し、BDNFによる[Ca^<2+>]i持続的上昇にtransient receptor potential channel (TRPチャネル)を介したCa^<2+>流入が関与する可能性およびBDNFによるミクログリア活性化抑制効果を報告した(Mizoguchiら,J Immunol. 2009)。 TRPチャネルはCa^<2+>透過性が高く、細胞内Ca^<2+>シグナリングにおいて重要な役割を担い、ミクログリア活性化を含む炎症過程のほか気分障害の病態との関与においても注目されている(Niliusら,Physiol Rev 2007、Kato T, Cell Calcium 2008)。 申請者らはさらに、SSRIあるいはリチウムを前処置したミクログリアにおいて、BDNFの[Ca^<2+>]i上昇効果が増強することを見出しており(SfN 2009 in Chicagoで発表)、今後[Ca^<2+>]i持続的上昇の細胞内機序を、とくにTRPチャネルに着目して解明することが、抗うつ薬および気分安定薬の作用機序を解明する上でも重要である。
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