我々は、統合失調症の病態との関わりが強く指摘されている脳諸領域の萎縮の問題および脳神経回路網の異常の観点から、統合失調症に対する神経幹細胞移植療法の可能性について解析・検討している。 昨年度に引き続き、ラット胎仔脳より採取・培養した神経細胞および神経幹細胞を用いて、神経幹細胞の持つ神経保護能についてin vitroで解析した。統合失調症の病態と関連が強いと推察されているMK-801および神経栄養因子除去による神経細胞障害に対しての神経幹細胞の保護的効果についてMTT法にて評価した。その結果、神経幹細胞が神経細胞に対する保護能を持つことが示された。また、神経幹細胞による神経保護効果のメカニズムを解析するために、生存に関与する主要な細胞内シグナル蛋白であるAktおよびERKに着目し、それらの蛋白の活性変化をウェスタンブロット法にて評価した。MK-801障害では、Aktの活性もERKの活性も障害により低下する結果となり、神経栄養因子除去障害では、Aktの活性は低下したが、ERKの活性は高くなる結果となった。また、神経幹細胞は、それらの活性変化を抑制する方向に作用する結果となった。 次に、上述のAktおよびERKの活性変化が、実際に神経幹細胞による神経保護効果に影響を及ぼしていることを確認するために、それぞれのシグナル伝達系の阻害薬を用いて解析を行った。その結果、MK-801障害では、両阻害薬にて神経幹細胞による神経保護効果が抑制され、神経栄養因子除去障害においては、Akt系の阻害薬でのみ保護効果が抑制される結果となり、AktおよびERKの活性変化が神経幹細胞の持つ神経保護能に関与する可能性が示唆された。 昨年度の研究結果とあわせて、経静脈的神経幹細胞移植が、神経保護・神経新生促進という観点から、統合失調症の病状の進行を抑制する新たな方策となる可能性が示唆された。
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