ヒト転移因子は、自身あるいはそのコピーをゲノム中へ挿入することによって、遺伝子の構造および発現に影響をもたらす内在性変異原である。われわれは「統合失調症や気分障害の遺伝的基盤は、メチル化の緩みによって、転移因子が遺伝子の構造および機能変化を起こしたことにある」との仮説を提唱し、これまでに統合失調症特異的な挿入変異を同定し、複数の変異遺伝子領域を選抜した。本研究では、異なる親由来にメチル化抑制を受ける転移因子のゲノムインプリンティングの性質に注目し、その性質ごとに、統合失調症トリオにおけるde novo挿入変異の同定を試み、統合失調症におけるゲノム不安定性をゲノムインプリンティングの観点から多角的に解明することを目的とした。本研究では、転移因子L1について、その挿入領域の網羅的探索を試みた。統合失調症トリオおよび対照トリオについて、それぞれのゲノムDNAを用い、inverse PCR用に設計したL1特異的プライマーを用いてPCRを行った。得られたPCR産物を精製し、2種類のサブトラクション法によって患者または対照(子)特異的挿入領域の探索を試みた。その結果、PCR産物のコロニーハイブリダイゼーション法による解析では明瞭な差異は得られなかったが、PCR産物のアレイCGH法による解析では、患者由来産物シグナルが両親由来産物シグナルの2倍以上の強度を示したスポットが1遺伝子、1.5倍以上のものが6遺伝子同定された。今後、これらの候補遺伝子について、分子細胞遺伝学的手法を用いた解析を行い、変異の全体像を明確にしていく予定である。
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