申請者はこれまでに、双極性障害のミトコンドリア機能障害仮説に基づき、双極性障害のモデル動物(トランスジェニック(Tg)マウス)を作製した。このTgマウスが示す異常行動を種々の治療法が改善するかを調べた。その一つとしてまず、電気けいれん刺激(ECS)を調べた。すでに予備実験において効果が示唆されていたが、多数のサンプルを用いて実験を行い、ECSが異常行動(ただし一部の表現型のみであるが)を著しく改善することをはっきりと示した。この結果について、原著論文にて発表した。また、研究実施計画をと基づき、バルプロ酸とラモトリギンがこのTgマウスが示す異常行動を改善するかどうか調べることにした。今年度は、行動の測定に影響を与えないで長期間にわたって投与でき、血液中の薬剤濃度が治療濃度にまで上昇する投与法を検討した。その結果、ラモトリギンの至適な投与法を見出したが、パルプロ酸に関してはマウスに経口で長期間投与することは極めて難しく、薬の効果を調べることはできないと判断した。これらの研究に並行して、時間のかかる研究として、Tgマウスを、別の気分障害のモデルマウスであるWfs1ノックアウトマウスと掛け合わせた。すなわち、Wfs1ノックアウトの遺伝背景にさらにTgを持つ、二重変異マウスを作製した。この過程で、Wfs1ノックアウトの行動学的表現型などを詳細に検討し、Wfs1の組織化学的解析の結果とともに原著論文にて報告した。さらに、時間のかかる別の研究として、Tgマウスを、メラトニンを生合成できるマウス系統にバッククロスを開始した。迅速にバッククロスを完了させるために、ゲノムワイドの88ヵ所のマイクロサテライトをモニターする方法を確立した。
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