気分障害と中枢神経系におけるmitochondrial DNA(以下mtDNA)の変異・欠失の関係を明らかにするために、しばしば気分障害を併発し、欠失mtDNAの蓄積により発症するミトコンドリア病の一つである慢性進行性外眼筋麻痺(CPEO)家系の原因遺伝子として同定されたmtDNA polymeraseγ(POLG)遺伝子に変異を持つknock-inマウスにおいて、定量的real-time PCR法による欠失mtDNA蓄積量の解析を行った。野生型マウスとheteroマウスについて、それぞれ12、24、48、60、72、84、101週齢の欠失mtDNA量を調べたところ、野生型マウスでも見られる年齢依存的な欠失mtDNAの蓄積が、heteroマウスにおいては脳(frontal lobe、other cortices、hippocampus、basalganglia、cerebellum)と筋(heart、skeletal muscle)において促進され、肝臓では促進が見られないというCPEO患者で見られる現象の再現を示唆する結果を得た。一方で細胞あたりのmtDNAコピー数や、mtDNA内の特定の領域における欠失については変化が見られないことから、多重欠失mtDNA特異的な現象であると考えられた。更に、欠失mtDNAが骨格筋への蓄積を示す以前の週齢において、heteroマウスは気分障害様の行動リズムの異常を示す個体が多く存在し、他の行動異常(記憶や情動、運動機能)を示さないことから、脳での欠失mtDNA異常蓄積が気分障害を引き起こす可能性があることが考えられた。一方、homoマウスにおいては、身体の各部位における欠失mtDNAが運動機能異常を引き起こしていることが示唆された。これらの結果から、気分障害発症においてミトコンドリア機能異常がリスクファクターの一つであることが示唆された。
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