放射線治療は癌の非侵襲的治療法の一つとして非常に重要な治療方法の一つである。近年の著しい放射線治療技術の進歩により、治療精度が大幅に向上し治療成績は大きく上昇した。しかしながら、これらの進歩にも関わらず、再増殖腫瘍細胞の制御は大きな課題として残っている。放射線照射後に出現する再増殖腫瘍細胞は、照射前の腫瘍と比較して悪性度が高いため、再増殖腫瘍の出現は患者の生命予後を悪化させる。そこで申請者は、再増殖腫瘍の性質を分子レベルで理解し、これを制御することが放射線治療による寛解率を改善する上で重要な要素であると考えた。本研究では、ヒト肺非小細胞癌H1299株を放射線照射後に分裂能・増殖能を有した細胞群を再増殖腫瘍細胞のモデル細胞群IR株とし、IR株の運動能および浸潤能を親株と比較・検討した。予備実験においてIR株におけるマトリックスメタロプロテアーゼ遺伝子の発現量が親株と比較して高かったことに着目し、Zymogramによるゼラチナーゼ活性試験を行ったところ、IR株のゼラチナーゼ活性が親株と比較して高かった。この結果に基づきボイデンチャンバー法を用いてトランズウェルを通過するIR株の細胞数を親株と比較した結果、IR株は親株と比較して、Type-Icollagenをコートしたwellに対する浸潤能力が高かった。また、Wound healing assayの結果、IR株は親株と比較して、高い運動能力を持つことがわかった。一方、IR株と親株の増殖能力をMTS試験によって比較したところ、両者はほぼ同程度に増殖することがわかった。20年度の研究結果により、再増殖腫瘍細胞モデル細胞群IR株は、増殖能は親株と変わらないが、浸潤能、運動能とも親株と比較して高いことがわかった。
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