今年度は、着目したTie-2分子およびその他の造血幹細胞および造血前駆細胞の細胞表面抗原の発現レベルと放射線感受性の相関関係を明らかすることを実施した。 全ての実験は弘前大学大学院医学研究科倫理委員会の管理下において実施した。造血幹細胞は、協力病院および助産所において、医師または助産師から提供者及びその家族に対し臍帯血採取に関するインフォームドコンセントを行い、分娩後安全に採取可能な場合のみに限った臍帯血から分離・精製した。 各個体から得られた造血幹細胞は、2GyのX線照射後に実施したコロニー形成法で得られた生存率がTie-2分子陽性率と正の相関関係があることが明らかとなった。このことはTie-2分子が放射線感受性を特徴付ける因子であることを示した。 Tie-2分子はangiopoietin-1というサイトカインのリセプターとして知られていることから、このangiopoietin-1で造血幹細胞を刺激したときの放射線感受性への作用の解明を更に実施した。仮説では、angiopoietin-1による放射線抵抗性が増強されると予想していたが、結果ではangiopoietin-1による放射線抵抗性の増強は起こらなかった。このことから、個体による放射線感受性の差異は、Tie-2分子が有する直接的な細胞内情報伝達経路に依存しない何らかの要因が作用する可能性が示唆された。 次年度では、Tie-2分子の発現レベルと各個体の造血幹細胞の放射線感受性の差異がどのように関与するのかを中心に解析を進める予定である。
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