研究概要 |
[目的]進行期食道癌の治療成績は外科手術あるいは放射線療法でも満足する結果は得られていないのが現状である.これまでの臨床的検討から患者背景によって進行食道癌の治療成績に差があることは明らかになりつつあるが,個々の症例による放射線治療あるいは化学療法に対する感受性の違い,また治療後の予後の予測は現地点では困難であると思われる.本研究はヒト由来の食道癌細胞株を用いて放射線照射に対する感受性について熱ショックタンパク(Hsp)に注目し,分子生物学的なアプローチから進行期食道癌の治療成績向上に貢献しうる可能性について検討する. [方法]細胞はヒト由来食道扁平上皮癌細胞株(TE-1)を用いた.X線照射後の細胞生残率はコロニー形成法で検討し,熱ショックタンパク90(Hsp90)シヤペロンコンプレックス阻害剤には17-allylamino-17-demethoxygeldanamycin(17-AAG)を用いた.17-AAGはDMSOに溶解後,薬剤単独による細胞毒性を評価し至適濃度を決定した.本薬剤による照射効果の修飾を検討するため薬剤を細胞に接触させるタイミングを照射前6時間の接触(接触後照射)と照射と同時に6時間接触(同時照射)することとし,照射単独による細胞生残率と対比した. [結果]17-AAGによる細胞毒性は時間および濃度依存性であったが,照射に併用する濃度は6時間の接触で細胞生残率が80%以上あった100nMとした.照射に17-AAGを併用すると細胞生残率は有意に低下し,薬剤を接触させるタイミング別にみると接触後照射の方がより強く照射効果を修飾していた. [結語]照射による二重鎖切断に対する修復機構が働いている際にHsp90 inhibitorを接触することによって,X線に対する感受性が増強されたとの報告もあるが,今回のわれわれの検討では照射前に接触させたほうが刹細胞効果は高かった.今後,X線照射後のDNA損傷やapoptosisの出現を検討し,さらに17-AAGを併用し照射後のDNA修復タンパクの発現の変化や生存シグナル伝達へのHspの関与について解析したいと考えている.
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