本年度は、頭部内組織が作り出す位相情報の基礎データを採取する目的で実験を行った。また、昨年度までに試行的に作成されていた位相差強調画像化法のソフトウェアを実験データをもとに、改良を行い実際のボランティア撮像によって得られたデータから画像が再構成できるかを確認した。これらの実験の結果、頭部内位相情報は、これまで知られていた位相変化以上の複雑な変化を行っていることが確認された。このような予想外の変化は、組織に含まれる磁化率に影響を与える常磁性体・反磁性体の影響よりも、その組織が持つ幾何学的形状による影響が大きい可能性がファントム実験により指摘できた。そこで、コンピュータシミュレーションにより、ごく単純なケースである、静磁場方向と直交する方向に走行する、円筒形の物体(血管に対応)が作り出す位相を計算して、実験と照らし合わせた。このシミュレーションから、組織が作り出す位相は静磁場の方向に依存し、かつ画像採取時のボクセルサイズにも依存し、理論的予想を裏付ける結果であった。この結果から、我々は位相差強調画像化法に新たな機能を付け、位相を選択することで、このようなアーチファクトを低減し、同時にこれまで描出不可能であると考えられていた組織の描出に成功した。特に、大脳新皮質内の層構造の描出は、3Tなどの比較的低磁場では不可能と考えられていたが、このほどその描出に成功し、学会発表までこぎつけることが可能になった。同時に、脳幹部の細かな組織の描出も成功し、次年度以降の医療応用に新たな可能性を提供する結果となった。また、新たな試みとして、位相情報を用いた機能画像作成にも着手し、賦活化部位の特定が高解像度で可能であることを証明したことも大きな成果であった。
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