<研究目的> 深部静脈血栓症の発症予防には抗凝固療法や弾性ストッキング使用などの対策が有効であるが、出血性疾患の合併などにより十分な対策が取れない場合も少なからず存在し、肺塞栓症という重篤な合併症を来すことが危惧されている。本研究では、遺伝子導入により下肢静脈壁で抗血栓因子を持続的に高発現させ、局所での血栓形成を抑制することを検討する。遺伝子導入による局所発現は、必要な場所(下肢静脈)、および必要な時(周術期)でのみ効果を有するという点で、臨床的に非常に有効な手段と考えられる。 <研究内容と結果> 1、遺伝子組換えアデノウイルスの作製 ADAMTS13の組換えアデノウイルスを作製した。ADAMTS13には数個の変異体の存在も知られており、通常の蛋白に加えてこれらの蛋白を発現する遺伝子の組換えアデノウイルスも新規に作成した。 2、培養細胞への導入実験 培養したヒト血管平滑筋細胞に対し、組換えアデノウイルスにて遺伝子を導入した結果、持続的に目的蛋白が発現することを確認し、培養液中での酵素活性の上昇を認めた。また、この細胞を用いて、生体外で血小板凝集反応への影響を検討すると、有意に血小板凝集を抑制する可能性が示唆された。 3、動物実験モデルの作製、遺伝子導入、評価 静脈血栓モデルは、SDラットの下大静脈を露出・結紮して作製した。組換えアデノウイルスベクターを用いて同血管に遺伝子導入を行ったのち、蛋白発現量、酵素活性測定を行った。この結果遺伝子導入により静脈血栓モデル血管において目的蛋白の持続的発現を確認した。また、抗血栓効果の可能性も示唆され、現在これらの結果を投稿準備中である。
|