本研究は、原子核の偏極率を数万倍に高めた超偏極キセノンガスを用いた肺機能診断法の確立を目的としている。肺の詳細な構造画像を得るとともに、肺組織や血液中に溶解した状態のキセノンガス画像を取得することで、肺におけるガス交換機能を画像化し、臨床診断に利用できる手法を開発することを目指して研究を進めてきた。今年度はまず、ヒト肺用コイルを用いて、超偏極キセノンガスの信号を取得し、その画像化を試みた。その結果、ヒト用MRI装置において、超偏極キセノンガスの核磁気共鳴信号は取得できたものの、その画像化は難しく原因を検討する必要があった。原因のひとつとして、超偏極キセノンガスはガス体であることから拡散定数が大きく、画像化に不可欠な勾配磁場印加により、その信号強度が大きく減衰することが予想された。理論式に基づき、勾配磁場勾配と信号減衰量の関係を調べたところ、ガスの拡散定数に応じた信号減衰が大きいことが理解された。検証実験においても、大きな拡散定数を反映して非常に横緩和時間は短いことが理解された。この問題を解決するためには、偏極率を向上させ信号強度をより大きくする手法があるが、現有装置においてこれ以上の偏極率の向上は難しいため、画像取得方法を改善することで、この問題を解決することを目指した。周波数変調した高周波を用いてTEが短く、勾配磁場の影響が少ないシーケンスプログラムを動物用MRIにおいて検討したところ、高いS/Nが期待される結果であった。倫理委員会から、ヒトボランティアにおいて肺計測をおこなうことも承認されており、ヒト用MRIにおいて肺機能画像を取得する基盤が整備されたといえる。
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