効果的な癌細胞死を誘導する分子標的治療の有効性を検討するために、腎細胞癌、大腸癌、肺癌等で高発現していることが報告されている癌関連抗原CA9(Carbonic Anhydrase IX)に着目し、上皮性腫瘍のなかでも特に腎細胞癌及び前立腺癌細胞におけるエピジェネティク薬剤によるCA9発現と細胞増殖能への影響の解析に取り組んだ。前立腺癌細胞株LNCap、PC-3、DU145などをDNAメチル化阻害剤5-aza-CdRにて処理後細胞増殖反応を検討したところ、いずれの細胞株でも増殖抑制はほとんどみられなかった。一方、同様にヒストン脱アセチル化阻害剤(HDACi)であるバルプロン酸やSAHAで処理した細胞株は、いずれも低濃度で顕著な細胞増殖抑制を示した。癌関連抗原CA9の発現欠失あるいは回復・増強やそれらに対する各種エピジェネティク薬剤処理の影響を調べるため、mRNA発現解析を行ったが、細胞株によっては発現に有意な差は見られなかった。また、日本人の約6割が発現するHLA-A24分子に結合するCA9由来ペプチドを用いin vitroで誘導した細胞傷害性T細胞が、HLA-A24陽性上皮性腫瘍細胞株に対して細胞傷害活性を示すか検討したところ、必ずしも特異的な細胞傷害活性を示さなかった。本年度の研究結果をふまえ、タンパクレベルでの癌関連抗原やHLA分子の発現解析とHDACi等薬剤処理による発現増強を検討し、今後は細胞傷害性T細胞がより選択的に認識する腫瘍細胞と薬剤反応性を明らかにしていきたい。
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