研究概要 |
【平成20年度研究の目的】 ホルモン受容体(HR)陰性(ER-, PgR-)、HER2陰性の" triple negative" 乳癌は内分泌療法やtrastuzumabの適応外で標準的な化学療法にも難治性で予後不良であると報告されており、新たな治療法の開発が急務である。平成20年度は、当院における臨床検体を用いてtriple negative乳癌の頻度と予後について調べるとともに、癌細胞のアクトミオシン系を介した細胞運動調節機構に必須とされるROCK蛋白の乳癌組織における発現状況を免疫組織学的に検討し、その臨床病理学的意義ついて検討した。【対象と方法】2000〜2006年の原発性乳癌手術症例231例(平均年齢 ; 57.4歳、平均観察期間 ; 25.7ヶ月)を対象とした。免疫組織染色はtriple negative乳癌26症例のうち解析可能な19例を対象とし、抗ヒトROCK2抗体、p-ROCK抗体を用いて評価した。さらにnon-triple negative乳癌における同蛋白の発現についても検討した。【結果】当院におけるtriple negative乳癌は11.3%を占めており、5年無再発生存率はHR, HER2いずれか陽性乳癌95.8%に対し65.7%と不良であった(p<0.001)。免疫組織染色では、ROCK2の局在は細胞質で、強発現74%、中程度発現21%、無発現5%で臨床病理学的な有意差は認められなかった。一方、p-ROCKは核に発現しており、発現例では浸潤部に強く発現していた。臨床病理学的にはリンパ節転移陽性症例において有意に強発現を示した (p<0.05)。 Non-triple negative乳癌も含めた浸潤性乳管癌における検討でも同様に、ROGKは細胞質に発現しており、67.3%(148/220)に強陽性であった。また活性型のp-ROCKは核に発現しており46.8%(103/220)に強陽性で、興味深ことに、浸潤部で強発現している特徴があった。正常乳腺組織、線維腺腫、DCISでの発現は亢進していなかった。臨床病理学的検討では、活性型であるp-ROCKの発現はリンパ節転移(p<0,0001)、リンパ管侵襲(p<0.05)と有意な相関を認め、p-ROCK陽性例で有意に予後が不良であった(p=0.014)。【考察】ROCK2/p-ROCK経路はtriple negative乳癌だけでなく、non triple negative乳癌も含めた乳癌の進展、特にリンパ節転移と強く関与していることが証明された。ROCK2/p-ROCK経路の制御はtriple negative乳癌に対する新たな治療法に繋がる可能性が証明された。
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