研究概要 |
【研究目的】Rho/ROCK/MBS経路は癌細胞の遊走・浸潤・増殖に関与している。我々はこれまでの研究により乳癌組織においてROCK活性化症例はリンパ節転移の頻度が高く、予後不良であり、将来的にはすでに臨床応用可能なROCK特異的阻害剤が乳癌の新たな薬物療法に有用である可能性について報告してきた。本研究ではトリプルネガティブ(TN)乳癌に着目して始めたが、Rho/ROCK/MBS経路はTN乳癌のみで働く経路ではなく、全乳癌を対象とした検討が必要であることがわかった。また将来の阻害剤の臨床応用を考慮して、ROCK阻害効果の指標としてはROCK2、p-ROCK、さらに基礎研究で汎用されるMBS(myosin binding subunit)の活性化(p-MBS発現)についての検討をする必要性が出てきた。本研究の最終目的は乳癌組織におけるROCK活性化の評価としてROCK2、p-ROCK、p-MBSの発現意義を臨床病理学的に明らかにして、既存の阻害剤の臨床的有用性を検討することにある。【対象と方法】原発性乳癌179例を対象として浸潤部におけるROCK2、p-ROCK,p-MBSの発現を免疫組織化学染色で解析した。【結果】臨床病理学的検討により、ROCKは細胞質に発現しており、67.3%(148/220)に強陽性であった。活性型のp-ROCKは核に発現しており46.8%(103/220)に強陽性で浸潤部で強発現している特徴があった。p-ROCKの発現はリンパ節転移(p<0.0001)、リンパ管侵襲(p<0.05)と有意な相関を認め、p-ROCK陽性例で有意に予後が不良であった(p=0.O14)。totalp-MBS陽性例はER陰性症例(p<0.05)、HER2陰性症例(p<0.05)に有意に高発現しており、腫瘍径<2cm(p=0.1)リンパ節転移陽性症例(p=0.1)に高発現する傾向を認めた。また多変量解析では独立した予後不良因子であった(p=0.025)。細胞質、核における発現で分類した解析では、細胞質p-MBS発現はER陰性症例に多く、特に腫瘍径<2cmでp-MBS発現症例は有意に予後不良(p<0.05)であることが分かった。核p-MBC発現は発現例で有意に予後不良で(p<0.05)あり、p-ROCKと強く相関して(p=0.0014)リンパ節転移症例が多い傾向にあった(p=0.1)。【結語】本研究を含めた我々のこれまでの研究結果より、乳癌組織においてRho/ROCK/MBS経路が活性化した症例は予後不良であることが明らかとなった。すでに臨床応用可能なROCK特異的阻害剤により乳癌の予後が改善できる可能性がある。今後は乳癌に対する新たな分子標的として、臨床応用を考えていくべきである。
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