豚肝移植モデルを用いて肝グラフトの新規過冷却保存法の開発を目的として研究を行った。当初は保存液の過冷却実験を施行した。-3℃、-4℃、-5℃、-10℃、-15℃でUW液を過冷却装置にて冷却した。-3~-5℃では液体の状態であったが、-10℃や-15℃では固まってしまった。次に豚肝組織片(1cm角)をUW液10mlに入れて対流が生じないように密閉容器に入れ、従来の保存法である4℃保存と-3~-5℃保存(いずれも15時間保存)で過冷却実験を行ったところ、-5℃では固体化した。-4℃以上では固体化せずに液体のままであった。4℃保存群(n=6)と-4℃保存群(n=6)とでUW液中のAST/ALT値を比較すると、175±35/150±19(IU/L)vs 114±21/101±25と-4℃保存群で有意に低値であった。同時に豚肝移植実験としても実際に体外循環下に同所性異種肝移植を施行した。また、肝移植時に生じるとされる虚血再灌流障害の病態改善のため、豚肝虚血再灌流モデルでプロテアーゼインヒビター(フサン)を投与し解析を行ったところ、肝組織保護効果を認めたことから新規過冷却グラフト保存法における補助的効果を発揮できる可能性が示唆された。他にも最近の肝臓外科で頻用されている熱凝固が与える影響を解析したところ術中の熱凝固により肝再生が術直後に抑制され術後2~3日後まで肝再生が遷延することが判明した。そこに、ステロイドを0.04mg/kgという微量で投与すると、熱凝固を加えなかった肝切除対照群とほぼ同じ肝再生の振る舞いとなった。このように肝切除前後での肝再生能を評価することで、過冷却保存後の肝移植における肝再生の特徴の観察に応用できるものと考えられた。実際の臨床では巨大肝腫瘍に対する肝切除術や下大静脈浸潤を呈した症例に対する肝切除術もしばしば経験する。このような手術時には残肝にダメージを及ぼし術後肝不全に陥ることも少なくない。肝臓を一度体外に取り出しバックテーブルで腫瘍から剥離摘出とし体内に戻すという自家肝移植症例もこれまでに教室で経験している。今後は新規の過冷却保存法に関する研究を継続して臨床にトランスレートできるよう大動物である豚を用いた探索的研究を継続していく必要があると考えている。
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