ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤による癌細胞へのアセチル化修飾は、分化誘導、細胞周期停止、アポトーシスを誘導するが、その機序解明はいまだ十分になされていない。本研究では、ヒト乳癌細胞株(MDA-MB-231)を用い、HDAC阻害剤(SAHA)による細胞周期制御機構の解明と、乳癌抑制に関わる新規標的分子の探索を行うことを目的とした。我々は、現在までにSAHA処理により、MDA-MB-231細胞にG2/Mアレストおよび細胞死を誘導することに成功した。その細胞周期停止において、(1)Cyclin A、Cyclin B1およびCdk1の発現低下、(2)p21およびp27タンパク質の発現上昇がみられた。さらに(3)SCF複合体構成分子であるSkp2およびCks1 mRNAおよびタンパク質発現低下に伴うp21およびp27タンパク質の安定化を見出した。SAHAによるSkp2およびCks1の発現抑制機構の詳細は未だなされておらず、非常に新規性が高いと考える。さらにCks1は、Skp2同様にp27の分解に重要な役割を果たすことがノックアウトマウスの実験から証明されており、乳癌において高発現していることから、乳癌抑制の重要なターゲットであると考えられる。現在、Skp2およびCks1のアセチル化修飾を介した発現制御機構解明に向け、Skp2およびCks1強制発現細胞の作成を行っている。 本研究において、ヒト乳癌細胞へのHDAC阻害剤処理による増殖抑制において、SCF複合体構成分子Skp2およびCks1の発現抑制の重要性とそれに関連する分子メカニズムの一端を明らかにした。
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