ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDACi)は、様々な癌細胞に細胞周期停止、分化および細胞死を誘導することが報告ざれ、その効果と作用機序が注目されている。前年度、ヒト乳癌細胞MDA-MB-231細胞へのvorinostat(suberoylanilide hydroxamic acid(SAHA))処理により、G2/Mアレストを誘導し、その機序として新たにSCFユビキチンリガーゼ複合体分子skp2、cks1発現抑制に伴うp21、p27の蓄積を見出した。 本年度は、MDA-MB-231細胞において、G2/Mアレストとの関与が報告されているp38MAPKがvorinostatにより顕著に活性化することを新たに明らかにした。興味深いことに、p38MAPKの活性化がG2/Mアレストのみならず、アポトーシス誘導と非常に相関することを見出し、vorinostatのMDA-MB-231細胞へのアポトーシス誘導機序とp38MAPK活性化の役割に関して詳細な検討を行った。p38MAPKのRNAiによるノックダウンの結果、vorinostatに対する細胞死感受性の顕著な減少およびcaspase-3活性化の抑制が認められた。また、p38MAPKノックダウン細胞では、vorinostat処理に対して抗アポトーシスタンパク、Bcl-X_L、survivinの発現レベルが維持されていた。以上より、p38MAPKはcaspase-3およびBcl-X_L、survivin制御を介して、vorinostatによるアポトーシス誘導に重要な機能を有することが明らかとなった。本研究において、p38MAPKが癌抑制において重要な標的分子となりうることを示唆する証拠を得たとともに、HDACiによる癌治療・予防への応用に新たな知見を寄与しうる意義ある研究成果と考える。
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