研究概要 |
近年、新たな癌治療の選択肢として分子標的治療薬が開発され、乳癌では、抗HER-2モノクローナル抗体であるtrastuzumab (Herceptin^<TM>)が標準治療に組み込まれている。本申請研究は、予後不良として知られている食道扁平上皮癌に対するHerceptin抗体療法の導入を目指し、Herceptinに対する食道扁平上皮癌細胞の耐性の機序、すなわち、癌の抗体依存性細胞傷害(ADCC)からの逃避のメカニズムを解明することを目的とする。 方法として、HER-2を過剰発現した食道扁平上皮癌細胞株TE4より限界希釈法にてADCCに対する種々の反応性を有するcloneを樹立し、それぞれのcloneのHER-2発現とADCCを測定した。そのcloneの中で、HER-2の発現が同程度で、ADCC活性が異なるcloneを選択し、ADCCに関与する因子を検討した。その結果、63個のcloneが樹立でき、その中で、HER-2の発現が同程度のclone2と8を選択し、検討を行った。これらのcloneの細胞増殖速度や、Herceptinに対する細胞増殖抑制効果、アポトーシス誘導能に差は認められなかった。また、細胞形態も同じであり、DNA typingの結果はどちらもHLA-A*0207/110101, HLA-B*4601/5401, HLA-C*010201/010201であった。TGF-βの産生量は同程度であり、IL-10の産生は認められなかった。clone2と8において、それぞれ72%、43%とADCCの有意な差を認め、NK細胞を抽出したうえでのADCCもそれぞれ86%、64%と有意な差を認めた。なお、単球を抽出したうえでのADCCには差を認めず、clone2と8のADCCの違い、すなわちHerceptin耐性の機序としてはNK細胞が重要な役割を果たすことが推察された。
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