本申請研究は、食道扁平上皮癌に対するHerceptin抗体療法の導入を目指し、癌の抗体依存性細胞傷害(ADCC)からの逃避のメカニズムを解明することを目的とした。 方法は、昨年度樹立した食道扁平上皮癌細胞株TE4のcloneを用い、HER-2の発現が同程度で、ADCC活性が異なるcloneを選択した。今年度はNK細胞に関連するcloneの細胞膜表面抗原の相違やperforin、granzymeの感受性などを詳細に検討した。その結果、ADCC活性の異なるcloneでは、FasやMIC A/Bの発現に違いはなかったが、MHC class I antigensの発現に明らかな相違を認めた。そこで、cloneにおけるMHC class I antigensの発現とADCC活性との直接関与を検討するために、cloneにIFN-γを反応させ、MHC class I antigensのup-regulationを行いADCCを行ったが、変化を認めなかった。また、NK細胞抑制receptorであるCD158a/bとCD159aを抗CD158a/b抗体や抗CD159a抗体を用いて、MHC class I antigensをブロックしたうえでADCCの検討を行ったが、変化を認めなかった。ADCCに対する反応が異なるcloneは、MHC class I antigensの発現に違いは認めたが、これが直接関与していないことが示唆された。NK細胞は細胞傷害を起こす際、perforinやgranzymeを分泌することが知られている。そこで、ADCCの反応の違いがこれらの感受性によるものかどうかをcloneに直接perforinやgranzymeを反応させ、検討を行った。その結果、癌のADCCからの逃避のメカニズムのひとつにperforinやgranzymeの感受性の低下が関与すると考えられた。
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